対談企画

地域に根づく「マチノマ大森」の今、そしてそのプロセスを次に活かす。

2018年11月開業の商業施設「マチノマ大森(東京都大田区)」が、開業から約6年を経た2025年に「大田区景観まちづくり賞」を受賞しました。受賞を機に、当時のキーマンである3名が改めて開発ストーリーを語り合いました。

地域に根づき、街に溶け込む「マチノマ大森」

所在地:東京都大田区大森西
敷地面積:約8,400㎡
延床面積:約23,000㎡
構造・規模:地上5階建
竣工:2018年11月開業
Webサイト:https://machinoma.jp/

かつては地域コミュニティの中心であった「萬屋」、そして人々の暮らしの中心であった「茶の間」が融合した「マチノマ大森」。 毎日の暮らしに身近な活動を、それぞれの楽しみ方で心地よく過ごせる場として、地域に根づいています。
街の中に溶け込む緑の植栽も評価され、「第4回大田区景観まちづくり賞(街並み景観部門)」を受賞いたしました。

「大田区景観まちづくり賞」とは

区内の良好な景観形成に寄与する街並みや建物、活動等を募集し表彰する制度です。 区民や事業者等の景観まちづくりへの関心を高め、大田区らしい魅力あふれる景観形成をさらに推進することを目指しています。

新たな地域コミュニティ創出につながった「マチノマノマ」。

藤井:開業から約6年が経った今、マチノマ大森が、「第4回大田区景観まちづくり賞(街並み景観部門)」を受賞しました。私は設計がスタートする段階で入社し、この案件にアサインされましたが、お二人は事業化する前から携わっていましたよね。

髙島:スーパーマーケットのライフさんから、あの場所で出店したいとご相談を受けたことに始まります。ただ、閉鎖されていましたが元々はクリーニング工場だった場所で、業態ゆえに土壌汚染や地下水汚染が大きな課題でした。汚染対策を専門とする会社と一つひとつ丁寧に課題解決に取り組みましたが、その間テナントリーシングは進めることができませんでした。どんな商業施設にしていくのか、具体的に検討できたのはいくつもの課題を解決し、土地を購入してからでしたね。

五十嵐:ライフさんを軸としたNSC(近隣型ショッピングセンター)を作ろうという構想は当初からありましたが、弊社としても一歩先を見た新しい時代の施設を作りたいという想いが強く、企画にはかなり時間をかけましたね。NSCは特別な日ではなく日常的に使っていただく場所。20年先を見据えて、どんな施設であれば満足してもらえるのか、自分たちが大森の生活者の立場になって自由に発想するワークショップを行いました。実際に住民の方にインタビューも行いましたが、時代に求められているのは滞留型ショッピングによって地域の新たなコミュニティを創造することだと確信しました。

髙島:方向性が決まると、計画段階では2階建てでしたが、コミュニティスペースを作るために商業部分を3階まで増やしました。何を作るべきか研究と視察を重ねる中で、図書館や区の行政機能も検討しましたが、最終的に3階に作ったのはパブリックキッチンです。大田区の産業も踏まえ、食とものづくりをテーマとしました。コミュニケーションスペース「マチノマノマ」として、開業時からさまざまなイベント・ワークショップを行い、お客様同士の交流が生まれるシーンも見られました。残念ながらコロナ禍もありやむなく閉鎖しましたが、新たなコミュニティの創出につながったと思いますね。

五十嵐:滞留型ショッピングと地域コミュニティ。課題としていたテーマをアウトプットできたのが「マチノマノマ」です。「地域住民の行きつけの場であってほしい」という我々の想いが詰まった企画だと思いますよ。

開発時にこだわった植栽が、時を経てナチュラルに街と一体化。

藤井:私が印象に残っているのは、3階まで増やした際のプランに小さな駐車場があったことです。駐車できる台数も限られていましたし、従業員向けのスペースが不足していたことから、従業員休憩室などに変更するプランを提案しました。当初は大反対されましたが、社内で何度も議論を重ねていくうちに徐々に理解され実現しました。現在の運営会社に聞くと従業員満足度がとても高く、リーシングにも寄与しているようで、こだわって本当によかったと思っています。

髙島:今回「大田区景観まちづくり賞」を受賞した大きな要因が、緑豊かな植栽だと思いますが、こちらも藤井さんのこだわりでしたね。

藤井: そうですね。豊富な樹種を揃えて四季を感じられるようにしました。エントランスには大田区の木に制定されている高さ11mのクスノキをシンボルツリーとして配置しましたが、プロジェクトメンバーみんなで千葉の樹木畑まで選定に行って選んだ木です。他の樹木も我々が実際に見て選んだものばかりで、6年経って木々が育ち、街に溶け込んでいるのは本当にうれしいことです。

従業員休憩室

藤井: 住民の皆さんからは、季節ごとに咲く花を楽しみにしているという声もありますし、ナチュラルに街と一体化しています。今回受賞したことで、「マチノマ大森」が地域に根づいている、皆さんに喜んでもらっていることを実感できました。 また、授賞式では大田区長に「マチノマ大森はよく利用しますが、居心地がとてもよいですね」とお褒めのお言葉をいただき、この案件に携わって本当によかったと思いましたね。施設の責任者とお話しする機会も何度かありましたが、「キッズスペースの利用者が多く、もう少し広くしたい」というご意見がありました。元々プランになかったので、これも私が提案して作ってよかったと思いましたし、改善点もわかりました。当社は短期回転型の案件が多く、売却後の状況を社内でフィードバックすることが少ないのですが、竣工して終わりではなく、満足度はどうなのか、課題はないのか、しっかり把握して次に活かすことが大切だと改めて感じました。

髙島:新たな業態にチャレンジしていたことはもちろん、20年も先を見据えてコンセプトワークに取り組み、さまざまな場所を視察して議論を重ねました。そのプロセスと、今の結果は私も社内に引き継いでいくべきだと思います。

五十嵐:売却後もどのように街にフィットしているのか、そこで働く人やお客様がどこに満足しているのか、しっかり確認して次の案件に活かさねばなりません。我々は売却する立場として、そこを強く意識する必要があります。「マチノマ大森」の開発ストーリーを社内で継承して、これからの開発に活かしていきたいですね。

キッズスペース

フードコート「マチノマキッチン」

3階フロア

「マチノマキッチン」テラス

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